二百89 沢木耕太郎

 

NHK クローズアップ現代 2023年1月10日

西川一三さんという方。何がすばらしいかっていうと、彼は密偵から旅人になったんだけれども、お金がない、頼る人もいない。国のバックアップもない。僕たちはまだパスポート持っているから日本国が助けてくれるけど、彼はそれもなかった。逆にだけど、すごく純粋な旅人になったわけですよね。

一人の人、ソロの人というのは、自分で基本的に何でもできなきゃいけないわけです。自分一人でできた方が自由になれるじゃないですか。人に縛られることがない。自分一人で、できるだけ一人でできるようになっていたい。

自由を獲得するために ”僕も 熾烈な闘いをしてきた”

僕が望んでいるのは、何かに制約されない生き方なんだなと。その制約をできるだけ排除していく、そして自分が選択できる幅を広くする。 自由度というものを「制約からの自由」と考えると、その制約を受けているものを外していくために 結構し烈な闘いはしたと思う。 取材費を自分で出さずに取材すれば、仮に取材に行って書くに値しないことでも書かなきゃならないですよね。だけど自分で取材費は賄えるようになると、取材に行って書くに値しないと思ったら、書かなくて済みますよね。お金の面で出版社や何かに制約を受けないとか、それが締め切り日を持たないっていうことにつながっていく。

その状況、立場を獲得するためにやっぱり努力が必要だと思うし、努力をしたと思うし、少しずつ闘って、自分の自由度を増していったと思う。それを超えたものを望んでない。「自由である」っていうことを最後まで貫けるかどうか。 

だけどそれは肉体的な制限や何かで、やがて自由度は制約されていくよね。それはそれで受け入れていくにしても、何か読みたいと思ったら読み、何かちょっと酒飲みたいと思ったら飲めるぐらいの自由で十分なんで、その自由を確保していきたい。

西川さん的な感じ。それってどこかで “境地”って感じだよね。 1年365日のうち364日働いて、仕事をきちっと9時から5時までするとお店を畳んで、帰りに居酒屋で、1人で2合のお酒を飲む。それだけで彼は十分満足だったわけです。あまり多くを欲しがらないで、自分で今手に入れられている、ある仕事と、ある生活を、そこをただ淡々と生きていくっていう。その姿というのは、僕にはやっぱり1つの理想型であるわけです。