四百09 シリアの小道で

【オリーブの丘へ続くシリアの小道で】(ふるさとを失った難民たちの日々)

ほんの1分でいいから想像してほしい、自分がこの本の登場人物の誰かであったら、と 。星野智幸氏推薦

教師ムッサムは言う。

「内戦によって子どもたちは皆、心に深い傷を負っています。ほぼ全員が目の前で家族や友人を亡くしているのです。その強烈で悲しい記憶が、子どもたちの心を今なお過去から離さずにいます。この学校では特別な心理学的なケアを行っています。彼らの心が過去にではなく、未来を考えていけるように」。

「私は教師として“希望を持ちなさい、希望があるから私たちは生きていける”と子どもたちに話さなければなりません。しかし現実は、私でさえもこの生活に希望を持てずにいます。子どもたちにとっても教師にとっても、希望を持つことが本当に難しいのです」。

「私たち大人は皆、シリアに帰りたいと願っています。しかしそれが叶うかどうかわかりません。もし私たちの代で帰れなくても、あなたたちの代でシリアに帰ってほしい。そして新しいシリアをつくり生きてほしい。しかし今、シリア全土にはおびただしい爆弾が降り注ぎ、多くの不発弾が土に眠っています。たとえ平和が訪れたとしても、そこでは不発弾の危険とともに生きなければいけません。それでもあなたたちがシリアに帰ることを願います。シリアの大地は唯一のふるさと、あなたたちのもうひとりの母親なのです」。

少しの静寂の後、少しすると少年が手をあげた。「先生、不発弾があってもシリアに帰りたい」。子どもたちが次々に手をあげ、ホールは歓声に包まれた。「帰りたい」「私も」「僕も」。その叫びは渦となって、小さな学校に高くこだました。

シリア ウクライナ ガザ アフガニスタン ミャンマー 

今 どこで どれだけのひとが 同じような つらいくるしみのなかにいるのか 思いをよせたい。