2百15 接客中のあなたへ

今まで何度も何度も同じようなことを書いてきた。けれど、こんなにも繰り返されると今でも心底ウンザリして、イイカゲンニシテクレと叫びたくなる。なぜ、こうも総がかりで、目の前にいる私を一人の大人として扱わないんだ? 
***あるホテルに宿泊したときのこと。車寄せで車椅子と共に先に降ろされた私は、チェックインのためフロントへと向かった。夫はそのまま、ホテルスタッフの案内を受けて車を停めに行った。このホテルはロケーションが良く以前から気になっていて、一ヶ月ほど前に私が予約した。私のクレジットカードで事前決済もしてある。ホテルとは電話で何度かやりとりをして、私自身が車椅子であることを伝え、バリアフリールームの予約と、バスルームの中にシャワーチェアを用意するようお願いしてあった。
私はフロントの高い高いカウンターへ行き、下から見上げるようにしてカウンターの向こうのホテルスタッフの女性にこう告げた。「チェックインしたいのですが」彼女は少し戸惑いながら「はい」と言うと、カウンターの向かいにあるこげ茶色に光る重厚で低いテーブルを指し「あちらのインフォメーション・デスクで受け付けますので、あちらでお待ちください」と言う。私は頷き、指示された場所へ移動した。確かに低いテーブルなら車椅子客とも話をしやすいし、宿泊者カードの記入にも不便が無い。ホテルのフロントにしろ、本屋のレジにしろ、なぜ高い高いカウンターの向こうにいる人間は車椅子客を見下ろしたまま平気で接客できるのかと常々不満だった私は、ゆったりした造りのテーブルに満足しながらスタッフを待った。
少しして、先ほどの女性スタッフが近づいてきた。「お客様がチェックインされるのですか?」―いや、さっきそう言ったはずでしょ?「はい」「少々お待ちください」    再び、どこかへ行ってしまう女性スタッフ。あの人は、何のためにここを案内したのだろう?フロントのカウンターの前に車椅子にいられたら邪魔だから?いや、あたし、チェックインしたいって言ったよね?    数分して、やっと彼女がテーブルへ戻ってきた。「ご主人が来られるまで、チェックインを待ちますか?」―???????? なぜ?「予約者は私です。私の名前で予約しているので確認してください。私がチェックインの手続きをします。」「かしこまりました」    三たび、彼女はどこかへ行ってしまった。あああああああああめんどくさい。なんで?私がチェックインするのは、そんなに異常な事態か?なぜ私は、同じスタッフに三度も「チェックインしたい」と言わされなければならないのか?なぜ、かくもこのホテルスタッフは私にチェックインをさせないのか?車椅子女は、チェックインの手続きをまともに出来ないと思われているから?車椅子女は、一人前の大人として認められていないから?車椅子女とは喋りたくないから?車椅子女を泊めたくないから?え?私いま、日本語しゃべってたよね?    私の前に四度目の登場となった女性スタッフは、宿泊者カードを手にしていた。やっと、チェックインしたいという私の望みが受け入れられるときがきたのだ。ここまでのやりとりの最中、若い女性の二人組がキャスターバッグを引きながらフロント・カウンターにやってきた。チェックインしたいという彼女らに対応する男性スタッフ。例の、高い高いカウンターで、スムーズに手続きが進んでいる。この世界は、高い高いカウンターを地面から生えたものと思っているやつらで構成されている。
***ホテルから帰宅して二日後。いつものヘルパーさんと、車椅子で外出をする。近所の図書館で本を二冊借りたあと、ケーキ屋へ寄った。キラキラと美味しそうなケーキが眩しく並んでいる。
ショーケースの向こうの、かわいいエプロンをした女性の店員さんAに、私は「注文してもいいですか?」と尋ねる。「はい、どうぞ」「『イチゴいっぱいショートケーキ』二つと、『塩キャラメルのロールケーキ』一つ」「『イチゴいっぱいショートケーキ』二つと、『塩キャラメルのロールケーキ』一つ、ですね。箱にお入れしますので、あちらにかけてお待ちください」ヘルパーさんと私は、指示された椅子の前で待つ。私はヘルパーさんに、「どうぞ、○○さんも座ってください。私はいつでも椅子持参だから」と声を掛けて笑った。店内のカフェコーナー、混んでますねぇ、なんて取り留めもない話をヘルパーさんとしていたら、しばらくして先ほどとは別の店員さんBがやってきた。
「お支払いを先に、よろしいでしょうか?」店員Bに声を掛けられ、戸惑うヘルパーさん。あ、私じゃなくて…」ああああああああ、そうなのよ。いつもそう。私が支払いをするなんて、いつだって誰も思わない。絶対に。私は膝にのせたカバンからスマホを取り出し、店員Bに言う。「私が買うんです。ペイペイでお願いします」「失礼しました。ペイペイですね?」店員Bは私の方へ向き直り、支払いの処理をして、立ち去った。それからさらに、3分くらい待ったろうか。それにしても、繁盛しているケーキ屋さんだなぁと感心していると、最初に対応してくれた店員Aが、白い箱を手に近づいてきた。「こちらで間違いがないか、お確かめいただけますか?」白い箱を少し傾け、その中身が見えるようにヘルパーさんに向ける店員A。????!!!!「あ、私じゃなくて…」本日二度目。戸惑うヘルパーさん。頭の中の、何かが切れる私。「私が買うんです。さっき、あなたにこのケーキ注文したのは私ですよね?」「あ…。確認お願いします」ツヤツヤとしたイチゴ。フワフワしたクリーム。ムカムカする私。「間違いないです」
店員Aはケーキの箱を紙袋に入れ、ヘルパーさんに手渡した。
車椅子女=出来ればかかわりたくない相手。車椅子女=フツーのことは何も出来ない人。車椅子女=弱い人。カワイソウで不幸な人。いったいどこで習ってきたんだよ?こんな公式。あなたにとって「出来ればかかわりたくない相手」なんて、車椅子かどうかなんて関係なしに、いくらでもいるでしょう?あなたにとって私は「出来ればかかわりたくない相手」かもしれないけれど、それは「私が車椅子だから」じゃなくて、「私だから」なんだよね?私をのことを「なんだこのクソ女」って思うやつはいるかもしれないけど、それは私が車椅子だからじゃない。私だから。でしょ?車椅子女は弱いかね?カワイソウかね?私のことを「弱くてカワイソウ」って、あなた思います? あー。少し、スッキリした。少しだけ、だけどね。こんなのはいつもの事なんだ。今日も素敵な一日を。
病院の看護師も 介護サービスの確認をするケアマネも 書類を僕に渡そうとします。付き添いの私に
「私は付き添いです。書類は○○さんにお渡しください」と 言います。