3百37 認知症診療に携わって

ご了解頂きましたので 認知症に携わっておられるお医者さまのブログを転載させて頂きます。僕の一存で一部を割愛致しましたので、是非「オレンジほっとクリニック ほっとちゃん通信」と検索頂き「認知症に携わって 2022.09.24」の全文をお読み頂きたい。もう一つ 丹野智文の講演を聞かれた看護師さんの投稿「目からうろこ 2022.11.22」も合わせてお読み頂きたいです。

  • 認知症診療に携わって

  • 私は、「認知症診療は難しい」と感じ続けています。第一に、薬剤選択の難しさがあります。抗認知症薬は作用機序で分けると2種類(コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬)あり、前者はアルツハイマー認知症レビー小体型認知症、後者はアルツハイマー認知症に適応がある訳ですが、これらの薬剤を型どおりに使用すれば良い訳ではありません。コリンエステラーゼ阻害薬で易怒性が亢進し介護負担が増加してしまう方もおられれば、NMDA受容体拮抗薬で傾眠傾向になってしまう方もおられます。抗うつ薬抗精神病薬についても同様のことが言えます。投薬を開始したことで表情が見違えるほど良くなる方がおられる一方で、全く効果が出ない方や、傾眠等の副作用が出てしまう方もおられます。 患者さん毎の状態を見定めて、投薬を行うべきか、行わざるべきか、どの薬をどの程度の量にするのかを判断している訳です。第二に、ご家族の方々へ患者さんへの関わり方をご説明する難しさです認知症診療においては、周囲の関わり方が患者さんの生活の質に大きく影響します。いくら投薬をしても、関わり方が変わらなければ患者さんやご家族が悩まれている問題が解決しないことが多々あります。患者さんから見た世界をご想像頂きながら、想いを傾聴し、共感し、否定しない関わりが求められる訳ですが、果たして毎日顔を合わせる認知症の家族に理想的な関わりが続けられるかと言えば、難しいと思わざるを得ません。現在、私の両親は認知症ではありませんが、将来認知症になった時に理想的な関わりを毎日続けられる自信は、率直に申し上げて私にはありません。そのため、無理難題をご家族にお話ししているような気持ちになってしまうことが多々あります。第三に、ご家族が認知症診療に求めておられることを把握する難しさです。少しでも改善して欲しいと思われている方、はっきりと患者さんに自覚させて欲しいと思われている方、何も言わないで欲しいと思われている方など、求められているものはご家族毎に大きく異なります。そして、それは安易にお聞きすれば分かるようなものではありません。ご家族が真に求められているものは、時間をかけて信頼関係を構築したあとに初めて明らかになるものであり、ご家族自身も当初は気づかれていないこともあります。以上、「なんて自信のない医者だ」と呆れられた方もおられるかと思います。私自身、当初はあまりの自信の無さに打ちのめされておりました。しかし、現在は少し違います。今は、認知症診療に自信を持つことが出来ないことは当然のことであり、寧ろそれこそが認知症診療に携わる医師のあるべき姿ではないか?と考えております。だからこそ、お一人お一人と謙虚に、真剣に向き合うしかない、そう腹を括っている次第です。もし外来でお会いした際、診療に対する疑念がございましたら、遠慮なくお話し頂けますと幸甚に存じます。